ジャパマ編集部からのおたより

2019年3月11日


ジャパンマシニスト編集部

【書籍紹介】
香害をめぐる気になる本 その1
『化学物質過敏症』(文藝春秋)

2冊の本をご紹介します。
1冊目はいまから17年前に文藝春秋から刊行された新書『化学物質過敏症』です。
著者は石川哲さん、宮田幹夫さん、そして、この4月に弊社から新刊を出していただく柳沢幸雄さんです。
宮田さんには、『お・は』79号特集「香り、化学物質過敏症で困っているお友だち」で、数回にわたり取材にご協力頂きました。
石川哲先生には直接お目にかかったことはないのですが、宮田先生ともにご自身が化学物質過敏症を体験され、臨床環境医として多くの患者さんを支えて来られました。
柳沢先生は、地球環境工学、環境プロセス工学をきわめ、ハーバード大学でも教鞭をとられ、現在開成中学・高等学校の校長先生です。
さて、このご本をなぜぜひともオススメしたいのか。
少々長い余談になります。
私は1986年4月のチェルノブイリ原発事故のあと、『超ウルトラ原発子ども』(伊藤書佳著)という本を編みました。
そのときは、わが子が幼かったこともあり、かなり危機感をもって本を編み、ある方から「福一はとりわけあぶない」というお話しを伺った記憶があります。
ところが、それをすっかりこんと棚上げして、『ち・お』でも『お・は』でも一度たりとも特集を組むことはありませんでした。
そして、8年前の3月11日を迎えました。
東北で地震というテレビニュースの大きな文字が目に飛びこんできたとき、何年も棚上げしたままだった原発事故という大文字が落ちてきたのです。

報道番組が、家々を町をのみ込んでいく大津波をくり返し映するなか、どれだけの人が、この災害に追い打ちをかけるであろう次の一大事を思ったことでしょう。これは、もう腰が砕けるような出来事でした。
不意を突かれ、現実のこととは思えない。しかし、さらに驚いたのは、まるでテレビニュースの解説は、タイムスリップをしたかのか……と思うような、ここまで明らかなウソがまかり通るのかという内容でした。
専門家と称する人たちの能面のような顔も忘れられません。記者もテレビのアナウンサーもウソを言っているのではなく、知らないのだということもショックでした。
さらに、当時は春休みであったにもかかわらず、周囲の親しい人たちでさえ避難をしようとしませんでした。
きっとメルトダウンをする。子どものいる方を中心にいま原発で起こっているであろうことを伝えても、春休みの間せめて首都圏を離れて、と言っても通じる人はわずかでした。
「逃げる」ということへの厳しさを実感しました。
高校生だった甥に「これを現実だと思いたくない」と言われたことが強く印象に残っています。
ただ、後々知るに、やはり「事実を知っていた」人は多数おり、私などのように逡巡などせずに南のほう、沖縄や海外に身を寄せ、移住の準備にとりかかった人も少なからずおられたようです。
この原発事故を腰砕けといいましたが、今朝あらためて『化学物質過敏症』を拝読して、その当時のショックを思い出しました。
『お・は』79号を編んでいたとき、私は「シックハウス症候群」や当時すでに農薬や化学薬品で「化学物質過敏症」になっておられた方の手記を大量に読み、そしてもちろんこの本もよく読んだはずだったのです。

筆者の3人はかなりはっきりと警告をしていました。
この「シックハウス症候群」で指摘され規制された「ホルムアルデヒド」だけではなく、このままでは今後10年20年後に微量の化学物質によってなんらかの公害が起こるだろうと。きわめて注視しなければならない物質も上げています。
そして、柳沢先生は次のように書かれています。
「新しい病、未知の病を患った患者、とくに環境汚染を現任とした病を患った患者が救われる確実な方法は(中略)患者の数が増えることである。化学物質過敏症に苦しむ患者が増え、誰の目にも新しい病気、未知の病気の存在が明らかになれば、マスコミが動き、政治が動き、そして行政が動く。その結果、対策が進行する」。
この本が刊行されたのは、平成14年2月20日。冒頭に記したように17年前のことです。
いま、シックハウス症候群と同じような症状を訴える人が、全国から声を上げています。家の中にいて発症したシックハウス症候群と、電車内や近隣の洗濯物のニオイで発症した人が、同じ症状を訴え同じように困窮されています。
3人の筆者も、よもや香料柔軟剤や洗剤、香りの商品が第二の化学物質過敏症問題を引き起こすとは思いもよらなかったかもしれません。
しかし、この本のなかでシックハウス症候群になった被害者たちは、反応する物のなかに、「整髪料」「香水」「化粧品」「芳香剤」「消臭剤」をあげ、人混み、密集しているところで反応することを訴えています。

柳沢さんはこの本の結びに次の言葉を記しました。
「こうした苦痛に満ちたサイクルを断ち切るための社会システム、社会的合意をいまこそ作ろうではないか」
しかし、新たな被害を訴える声が出てしまったのです。まずは、この事態を明らかにして、被害を最小限にしていくことが急務です。
2019年3月11日 編集部 松田博美

『化学物質過敏症』
著:柳沢幸雄 石川哲 宮田幹夫
刊行:2002年02月20日
発行:文藝春秋
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784166602308