障害のある子は、普通学級に行けないの? 

2020年2月20日

『おそい・はやい・ひくい・たかい』連載
小児科医
山田 真

連載最終回 高校への希望者全入を実現するために

◆前回までのお話
小児科医・山田真さんの娘・涼さんは知的障害をもっています。小・中学校を地元の「普通学級」で過ごし、3年の浪人ののち都立高校普通科に入学しました。この連載では涼さんのたどった軌跡とともに障害児・者の高校就学運動の歴史をふり返り、入学制度の変遷についてもお話ししてきました。

 

「学校間格差の解消」は夢のような話
 前回、京都では1950年から60年以上もの長いあいだ続いた「総合選抜方式」についてお話ししました。この方式は「学校間格差の解消を目的として、居住地や学力などによって合格者を学区内の各校に平均的に振り分ける制度」でした。
 しかし成績のよい子どもが、自分の行きたい学校に行けなくなる可能性があるということで私立高校へ流れてしまい、公立高校の地盤沈下を招くことになりました。
 高校が有名大学の入学者数を競いあい、入学者数のランキングを一部の週刊誌が載せたりするようなこの国では、「学校間格差の解消」など夢のような話なのです。
 東京を例にとれば、「大学区制にして、東京在住の生徒は東京都立の高校をどこでも受けられるようにする」「中高一貫校を設置する」「重点校を設け、そういう高校は有名大学の進学に向けて強化する」などの方策をとってきました。
 一方で定時制高校は統廃合され、三部制の高校などに変わってきています。三部制の高校には夜間部もありますが、定時制の高校よりは高い学力を要求されるのがふつうです。

 

いまも続く定員内不合格
 こうした状況のなかで、障害児の高校入学はどんどん難しくなってきました。
 東京、神奈川、大阪などは教育委員会が「定員内不合格は出さない」という方針を打ち出し、それを守っているので、なんとか障害児も高校へ入れます。
 しかし東京では、全日制の高校のほとんどが定数割れしません。つまり受験生の数が募集数を上回る高校がほとんどになっているということです。
 「定員内不合格を出さない」というのは、「受験者数が募集人数を下回る場合は、どんなに点数が低くても合格とする」ということですから、定数割れする高校がなくなれば意味のないものになってしまいます。
 しかし、東京でも定時制高校には定数割れするところが何校もあるので、知的障害で点数がとれない子どもも入学できています。

 しかし多くの県がいまも定員内不合格を出しています。
 千葉県では長年、障害児の高校就学運動が続けられていて、多くの障害児が入学をはたしていますが、渡邊純さんは合格できませんでした。
 純さんは脳性まひで医療的ケアを必要としましたが、小中学校を普通学校で過ごしました。そして中学卒業後、公立高校を目指したのですが、入学できないまま、昨年暮れ、21歳の生涯を終えました。
 純さんは7年間浪人しましたが、そのあいだ27回受験して27回不合格。そしてそのうち25回は定員内不合格だったのです(受験回数が多いのは全日制の二次試験や定時制の二次試験、三次試験なども受けているからです)。
 純さんのほかにも、山口県で3年間浪人して受験をくり返したものの、定員内不合格の連続でついに高校を諦めた少年もいました。
こんなふうに障害児、とくに知的障害のある子どもについて、高校の壁は厚いのですが、さらにこのところ入学後のあつかいに変化が出てきています。

 

高校で始まった通級制度
 小中学校には特別支援学級がありますが、高校にはずっとありませんでした。
 ところが最近あちこちで通級制という制度が始まってきています。勉強が遅れていると判断された生徒が、ほかの生徒とはべつの教室で個別の授業を受けさせられるというかたちです。
 数学の時間だけ別室でとか、英語の時間だけ別室でとかいうかたちが多いのですが、すべての科目について遅れていると思われた生徒はすべての時間を別室でということになりかねません。
 こうなると実態としては特別支援学級に在籍するようなかたちになり、ほかの生徒と分離されることになります。

 

多様な子どもをいっしょに教育するには?
 いま世界的にはインクルーシブな教育の方向に向かっています。インクルーシブとかインクルージョンとかいう言葉には適切な訳語がないのですが、いちおう包摂という訳語が当てられています。
 これは「世の中にはいろいろな人がいて、いっしょに生きている。これを民族とか人種のちがいとか、健常児と障害児とかいったことで“分けて生きる”かたちにすると差別や偏見が生まれる。だから分けないで生活したり、教育したりすることを目指そう」という意味だと考えていいと思います。
 日本では義務教育の小学校・中学校では特別支援学校、特別支援学級、普通学級という場所があり、障害児と健常児を分離して教育していますが、これはインクルーシブな教育とはいえません。
 世界的な動向にあわせて普通学級で多様な子どもをいっしょに教育することを目指すべきなのです。多様な子どもをいっしょに教育するには、いろいろな工夫が必要になります。
 一学級の子どもの数を減らしたり、教職員の数を増やしたりすることも必要でしょうし、成績評価ということについての検討も必要になるでしょう。そしてそうしたことが能力主義に傾いた現在の教育全体を見直すことにつながっていく可能性もあります。
 東京での障害児の高校就学運動を担ってきた中心的なメンバーはみんな高齢者になってしまいましたが、運動は続けなければなりません。全国でも苦労をしながら運動を続けている仲間がいます。
 高校への希望者全入を実現できるよう、みなさんも応援してください。
 これで長かった連載の終了です。

 

前回 連載34 学校間格差の解消を目指した「学校群制度」

娘・涼さんと

プロフィール
やまだ・まこと
小児科医。八王子中央診療所所長。「子どもたちを放射能から守る全国小児科医ネットワーク」代表。本誌編集協力人。


おそい・はやい・ひくい・たかいNo.108
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