アニメをこんなふうに観てみると

2019年2月5日

『おそい・はやい・ひくい・たかい』連載
児童文学研究者
村瀬 学

連載14 『ポカホンタス』に見る「アメリカ建国」と「入植」の歴史

『ポカホンタス』(1995年)は「ディズニーアニメ初の史実をもとにしたラブストーリー」というキャッチフレーズで作られた映画です。
興行的には大ヒットしたという作品ではなく、むしろさまざまな分野から批判が多く寄せられた映画としても有名なのですが、それでもこのアニメはここで一度はとりあげたいとずっと思ってきました。

入植者と先住民の争いと恋

作品のあらすじを、ざっと説明しておきます。
17世紀初め(日本では江戸時代の初めごろ)、ヨーロッパの国々が夢と富を求めて新大陸アメリカに入植しはじめたころの話です。当然、アメリカには先住民がいるわけで、入植者と先住民のあいだで、土地をめぐる激しい争いがあちこちで起こりました。
アニメの舞台は、イギリス人のジョン・スミスという軍人たちが、いまでいうバージニアに到着し、そこに建設しはじめたジェムズタウンという村です。
ここでも当然、先住民との争いが起こるのですが、スミスは偶然森で酋長(しゅうちょう)の娘ポカホンタスと出会い、心惹かれあったがために、酋長はスミスらの入植者に食料をあたえたりして、もてなしをします。
ところが、スミスの上司のラトクリフ総督は、金の鉱山を求めるがために先住民の善意を無視して、彼らの土地を奪いつづけ、激しい戦闘が起こります。
そんななか、スミスは先住民に捕らえられ、処刑されることになるのですが、ポカホンタスがわが身をなげうってスミスを助けようとし、酋長は二人の仲を認め処刑を中止します。
その後、ラトクリフ総督の悪名は本国にも知れわたり、総督の地位は剥奪され、入植地は穏やかになり、二人は、仲睦まじく暮らしていったという展開です。

批判された理由は?

アニメでは、さまざまな歌が挿入歌として歌われ、とりわけ「風の色」「川の向こうで」などはヒットし、よく歌われました。
♪あなたが踏むこの大地を/よく見てごらんなさい/岩も木もみんな生きて/心も名前もあるわ/あなたが知らない世界/知ろうとしてないだけ/見知らぬ心の扉/開けてのぞいてほしいの/……風の絵の具は何色♪
先住民のポカホンタスが、自然と一体となって生きる世界観をスミスに伝えようとして歌う「風の色」は、いい歌でした。またアニメには古木の老婆が出てきてポカホンタスと語りあう汎神論的、アニミズム的なシーンも興味深く描かれていました。

こういうふうに説明すると、このアニメがどうして批判されることがあったのだろうと思いたくなります。でも、ほんとうにいろんな方面から批判がなされました。その決定的な批判を二つここで紹介しておきます。
まず、ポカホンタスはたしかに「史実」の人ですが、スミス(当時40歳ともいわれています)と出会ったころは11歳くらいで、アニメに描かれたような成人女性では全然なく、恋愛対象にもならない年齢差があったということ。
それからスミスをかばって処刑を中止させたというのも、「事実」ではないらしいこと(そもそもこの「記録」はスミス自身による二つの「報告書」がもとなのですが、最初の報告書にはこの大事な処刑の話は記録されていないのです)。なぜなら、いくら酋長の娘だからとって、処刑の場に11歳の娘が立ち会えるような風習はなかったということ。
批判の多くは、先住民のネイティブアメリカンの人たちから出されました。先住民の描き方があまりにも「史実」からかけ離れているからでした。

「史実」はわからないところばかり

ところで、このアニメは、スミスとポカホンタスの相思相愛ぶりで終わっているので、このアニメを見た人はきっとこの二人は結婚したものと思ってしまうのですが、「史実」はそうではなく、その後現れたロルフという男性とポカホンタスは結婚し、キリスト教の洗礼を受け、レベッカというイギリス風の名前をもらい、一人息子も生まれています。
そしてロルフとともにイギリスへ渡り、部族の王女という高い地位で紹介され、イギリスの女王陛下や貴族たちにも会い、いちやく有名になります。それはアニメ『ポカホンタスⅡ』で描かれています。それでもレベッカは、21歳でイギリスで病気で亡くなります。
夫のロルフは、その後アメリカに渡り、黒人奴隷を使ったタバコ農園を経営し、先住民の蜂起にあって殺害されたといわれています。
レベッカの一人息子もロルフのじつの子どもではなかったといわれ、「史実」としてはわからないところがたくさんあるみたいです。

子どもたちにあたえられた「建国」のイメージ

ところで私はポカホンタスのあらすじを紹介したいわけではありません。どうしてもこの物語を紹介したいのは、どこまでほんとうかわからない話を「史実」というふれこみでアニメにしたディズニーの功罪をあげつらうためでもないのです。
というのも、このアニメは、じつは「アメリカの建国」にかかわる大きなイメージを子どもたちにあたえるところがあったからです。それは、アメリカへの入植者たちが先住民との心温まる交流のなかで、「アメリカ」という国をつくっていったというイメージです。
しかし、アニメ『ポカホンタス』のなかにも描かれているように、入植者による先住民の虐殺がありました。
そして、それへの応酬としての先住民による白人たちへの虐殺(1622年、パウアタン部族連合の大蜂起で347人のイギリス人が虐殺されました)。その憎悪の連鎖は、この後連々と続いていきます。
アメリカの建国史には、そういう血に塗られた歴史があったのですが、先住民側のよき代表としてのポカホンタス、入植者側のよき代表としてのスミス、この二人の心温まる交流のなかで、アメリカの建国が始まったというイメージを子どもたちにもってもらえたらなんて素敵だろうと、誰かが、どこかで考えてきたというわけです。私はそこに関心をもってきたのです。

ポカホンタスがつないだもの

当時少女だったポカホンタスは、イギリスとその入植者たちのさまざまな思惑のなかで、みずからの文化を捨て(アニメでは「風の色」を歌っているにもかかわらず)キリスト教に改宗し、新大陸アメリカの代表者のように宣伝され、若くして亡くなっていったわけですが、なにかしらイギリスに都合よく利用された先住民のような側面も見られます。
そしてディズニーもある意味では、このポカホンタスを利用して「アメリカ」と「入植者」を愛と交流の歴史に見せたかったのかも知れません。
ところで、さまざまな批判を受けたのに、それでも子どもたちが「アメリカの建国」を知る最もわかりやすい手がかりはというと、このアニメ『ポカホンタス』しかないということをあらためて痛感しないわけにはゆきません。
というのもこのアニメから、「アメリカの建国」がまず「入植」の歴史であり、それは先住民との争いの歴史であることもきちんと学べるようになっているからです。
そして、あの挿入歌「風の色(カラー・オブ・ザ・ウィンド)」もキリスト教というよりか、先住民の世界観を歌っていたところも、ディズニーの演出としては高く評価されるべきだと思っています。
ちなみに余談ですが、イギリスのバリーの作品『ピーター・パン』(原題『ピーターとウェンディ』1911年)の物語に、「タイガー・リリー」というインディアンの娘が出てきます。
「ネバーランド」で活躍するのですが、なぜここにインディアンの娘が出てくるのかずっと不思議でした。
でもひょっとしたら、イギリスがアメリカと出会って、最初にイギリスに招待したのがポカホンタスという酋長の娘であったことが、イギリス人の記憶のなかにひき継がれていて、ここに出てきていたのかもしれないと今では勝手に思うようにしています。
*『ポカホンタス』は、実写映画化もされ『ニュー・ワールド』(2005年)として公開されていて、そのときのポカホンタス役は、14歳で抜擢されています。

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プロフィール
むらせ・まなぶ
同志社女子大学特任教授(児童文化論)。第34回日本児童文学学会奨励賞受賞。
『13歳論--子どもと大人の「境界」はどこにあるのか』(洋泉社)、『宮崎駿の「深み」へ』(平凡社新書)、『長新太の絵本の不思議な世界 哲学する絵本』(晃洋書房)ほか著書多数

 

 

 

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