2025年6月10日初版
宮澤京子 著
1992年秋、著者は家族とともに東京を「脱出」して、宮澤賢治生誕の地としても知られる岩手県花巻市に移住した。
保育士、知的障害者の生活指導員、特別養護老人ホームで介護福祉士を務めた後のことだ。
移住後は未経験のまま、農を暮らしの中核にすることを志し、数々の失敗をくり返した。
「ヒト・モノ・カネ」がないなかでも意志はぶれず、やがて2001年には社会福祉法人悠和会「銀河の里」を創生し、夫は理事長に、著者は施設長となり、「認知症高齢者」とともに生きる日々が始まった。
職員とともに田んぼや野菜畑を拓き、ブドウやリンゴなども自家栽培し、与えられた土地に恵みもあり、やがて里は収穫品の加工所やワイナリーなども有する高齢者ホームへと育っていった。
著者曰く「現代の長老」「レジェンド」たちとの、四半世紀を超えるエキサイティングな日々を綴った原稿は「あまのがわ通信」(発行:銀河の里)に掲載された。その膨大な原稿を再構成した一冊が、この「私家版」である。
「銀河の里」は、関わった一人一人にとって、異って見えている。
「里は運動体」であり、いまこの瞬間もその実態や里の真実は現れたり消えたりしている。「私以外の人が里を語ればまた違う世界になる」と筆者は本書を「私家版」とすることにこだわった。
そこに棲まう主人公たちは、「あの世とこの世を行ったり来たりできる人たち」で、この里の脇役である職員たちにも、そんな世界に身を置くことを「ワクワク」し喜びと感じられる素質が求められる。
多くの人は、高齢期、認知症を怖れている。社会的なマイナス、問題と捉えている。
本書は、その怖れやマイナスをだんだんとプラスに転じさせていくだろう。闇夜のなかで「銀河の里」は希望の星を輝かせている。
本来、老いることも、衰えていくことも、死んでいくことも、そう困難でも悲惨でもない。まるで暗闇に一人追いやられるような、諦めや絶望に囚われる必要はない、と。
高齢期を人間らしく豊かに生きることはできる。
その確かなヒント、道標の灯りを、この一冊から感じとりたい。
定価(本体価格2,000円+消費税)
四六判/402頁/ISBN978-4-88049-343-5
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もくじ
まえがき
序 「能」の世界と「銀河の里」
グラビア「はる」
Ⅰ 里での暮らし ——住まい・日常・食・エネルギー
Introduction 何が「銀河の里」なのか?
食事——「食べること」と「栄養摂取」
移動——私はなぜ生まれ、そしてどこへ?
着脱——ハウツーとしない視点
入浴——クリエイティブなやりとりが、生活に潤いを与える
排泄——同じ地平を共に生きている
エネルギー——「自分事」として考えてみる
住まい1——管理に成り下がらない運営
住まい2——人間の生き方のために設計し構想する
住まい3——新たな関係を紡ぎ出す空間として
農業2——藤原辰史著『戦争と農業』をテキストに
農業3——機械の技術革新の視点から
農業4——高齢者事業のなかでの「農」の在り方
グラビア「なつ」
Ⅱ 異界レジェンド達の教示
——老い・認知症・死を生きる魂に近い中間領域から
人間の全体像に触れる
朝の煉獄
痛み1——その意味を探る
痛み2——転換する糸口
記憶——ところで、私はどうしてここに連れてこられたんでしょうか?
思春期と死春期——死を背景にどう生きるのか
弱さ——「不安と孤独」から救われ、癒される時
麻雀——通常とは別ルールで 1
傷を生きる——生きるための決意
認知症という希望
日常1——エキサイティングな私の一日から
日常2——「現代の長老達」の世界観
日常4——里の暮らしの豊かさ
挑戦——かけがえのない「物語」や「伝説」を紡ぎ続ける
我が家の『毎アル』1——認知症の義母と重複障害のある義弟と暮らして 我が家の『毎アル』2——呪われた母の日
我が家の『毎アル』3——荒ぶれる神々の「初詣」
グラビア「あき」
Ⅲ 里の土台をつくるもの真の文化人類学者に学ぶ
——障害と命に向き合うフィールドワーク